チョコチョコ甘く (1)




――――2月14日。世界中の人々が、愛や感謝の言葉を交し合う日――――

毎年数え切れない程のチョコやら贈り物を貰うCFレーサー達にとっては、さほど重要なイベントという位置付けにはならないようだ。
ごく一部の人達を除いては―――。


「なぁ〜ハイネルぅ〜〜…今年はバレンタインにお前からチョコが貰いたいなぁ」
ホスピタルエリアでランチをとっているハイネルの目前で、既にランチを食べ終えたグーデリアンがパイプイスに座ったまま、ガタゴトと全身を揺らして訴えていた。
しかしいつものことだけに、ハイネルはパンを千切っている長い指先から視線を上げることはない。
「貴様、これ以上デブになってどうするつもりだ?大体、毎年あれだけ貰っておいて何が『チョコが欲しい』だ」
「あれだけ貰っておいて…って俺が貰ったチョコ全部をクルーやらスタッフに配ったのお前だろー!!」

思い返せば数時間前
普段どおりにコースに現れたグーデリアンの目の前に、色とりどりの包装紙に包まれたチョコレートの山が運び込まれていた。
「今年もすごい量ですねぇ」
などと若いクルー達が口々に声を揃えて言うものだから、当のグーデリアンも毎年の事ながらやっぱり嬉しくなってしまうのである。 プレゼントの山を前にしゃがみ込むと、それらを1つずつ手に取ってみては
「おお〜!!」
だの
「すげぇ!!」
だの、挙句の果てには
「あ〜、どれから食べようかなぁ」
なんてうっかり言ってしまったグーデリアンの言葉を、ピットの奥でデータと睨めっこをしていたハイネルが聞こえていたのかどうかは分からないが、
その後、グーデリアンがマシンテストの為にコースへと出ている間にハイネルが全て配ってしまったのである。

「お前は放っておいたらあのチョコを全て食べていただろう?開幕戦も近いのにそんな事させる訳にはいかない」
至極もっともな理由を言ってのけるハイネルに、それでも俺のプレゼントなのにー!!!としつこく食い下がるグーデリアンを無視して、食後のコーヒーを口に含むと時計に視線を移す。
「…もう戻んの?」
いつものハイネルなら、よほど忙しい時ではない限り食後のコーヒーはゆっくり味わって飲む方なのだが、今日は飲みきることさえなくランチを切り上げていた。
そんなに忙しくなるような用事なんてあったっけ?と首を捻るグーデリアンを横目に、せわしなく席を立つ。
「今日はこのまま本社へ寄ることになってるんだ」
「ええーーっ!?俺まだこの後もあるのにー!?」
この後もあるから何なんだ、と言おうと振り返ると、パイプイスに座ったまま盛大に肩を落とし、背中を丸めて頭だけをテーブルに乗せたグーデリアンの姿が、留守番を命ぜられた犬の ようにシュンとなっているのがなんだか少し可愛く見えて、思わず噴き出しそうになってしまう。目を細め、いつも以上に柔らかく微笑うハイネルの顔をグーデリアンは見逃して しまったけれど
「終わったら寄り道なんかせず、真っ直ぐ家に帰るんだぞ」
と子供を諭すような優しい口調に、思わず顔を上げたグーデリアンだったが、既に目の前に居たはずの人物はピンと伸びた背中を向け、歩き出していた。
そんな後姿でさえ美しい自慢の恋人を見つめ、ふぅ、と深く息を吐き出す。
「別に本命以外のチョコなんてどーでもいいんだけどねぇ」
ハイネル以外の人からのチョコや贈り物なんて本当にどうでも良かったのだが、拗ねてみたり怒ってみたりしたらもしかして……という淡い期待は、儚くも散ってしまった。
その上、こんな日にまで本社で仕事なんて淋しすぎる。
きっと帰りも遅いんだろーなぁ……
あ〜あ……
神様は俺のこと見てくれていないんじゃないかと恨みがましく思いながらも、ゆっくりと重い腰を上げ、ホスピタリティエリアを後にした。




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