チョコチョコ甘く (2)




空が少しずつ朱く染まりだした頃、グーデリアンはハイネルが課していったトレーニングを終え、ようやく帰宅の路についた。
ハイネルのいない寂しいバレンタインデーに始終テンションは下がりっぱなしだったが、トレーニングの疲労感からか半ばどうでもいいや的な気分になっていた。
それでも、少し遠回りをして花屋に寄り、花を選んでしまっていた自分に苦笑する。
仕事で疲れたハイネルが、少しでも癒されてくれればいいな
なんて。
あ〜、俺って健気だなぁ
そんな自分自身にうっとりしていると、あっという間に家が見えてくる。
少し薄暗くなっていた景色に溶け込むように灯っている家の中の優しい照明。
……え?
と思う間にも家の前まで着いてしまって、ガレージの中にハイネルの車があるのに気が付いた。
もしかして――――。
再び淡い期待が胸をよぎり、急いで自分の車をガレージに納めると、傷つけないようにそっと花束を抱えて、それでも足早に玄関へと向かう。
ガチャリとドアを開け、リビングへと向かうグーデリアンの鼻を掠める暖かい匂い。
キッチンに立ち、おかえり、と迎えてくれるハイネルに、胸が熱くなる。
大の男が花束を抱えて突っ立っている姿に、ハイネルはぷっと笑い
「似合わないな」
なんて軽口を叩かれてみても、今のグーデリアンには甘い言葉にしか聞こえない。
花束をテーブルに置いてから、一直線にハイネルの前まで歩み寄ると、ぎゅうっと力一杯抱きしめる。
「こら…っ離せっ…」
腕の中でジタバタしているハイネルにはお構いなしに、尚も抱きしめる腕に力を込める。
「……ただいま」
耳元で囁かれた思いのほか真摯な声に、ハイネルは腕をとき解こうとするのを止め、グーデリアンに身を預ける。
「…おかえり…… …どうかしたのか?」
「―――居ると思わなかったから…」
なんて、言葉にしてみると酷く子供じみた理由だった気がして、バツが悪そうに腕の中のハイネルを離した。
「何ていうか、嬉しかったんだ」
「…私は別に、遅くなるなんて一言も言ってないぞ?」
悪戯っぽく首を傾げて微笑うハイネルがあんまりにも可愛くて
「………そうでした」
と思わず顔が緩んでしまう。それからもう一度抱きしめてキスしようかと、ハイネルの腰に手を回したところで、スルリとかわされてしまった。
「ほら、ご飯にしよう」

ああ、俺は何て幸せ者なんだ
ハイネルが、おかえり、と出迎えてくれて
ハイネルが、俺の為だけに作ってくれたご飯を食べて。
そして一緒に夜を過ごして
また明日を迎えるんだ。
チョコレートの1つや2つ貰えなかったくらいで神様を呪うなんて、とってもバチ当たりだったよ。
ああ、神様―――ありがとう!!!

珍しく機嫌の良いハイネルと他愛のない会話をしながら食べた料理は、どれもこれもとても美味しく、2人の間に飾られた花束がより一層幸福感を倍増させてくれていた。
「あ〜、美味しかった!ごちそうさま!!」
とテーブルに身を乗り出して、向かいに座っているハイネルの頬にチュッとわざと音を立ててキスをすると、みるみる白い頬が朱に染まる。
そんな自分を誤魔化すように、そそくさと食器を片付けるべくキッチンへ逃げるハイネルは、何度見てもやっぱり可愛い。
いつまで経っても、あの初々しい感じがそそられるんだよなぁ
などと幸せに浸りきっているグーデリアンの前に置かれた1つのマグカップ。
見上げると、先程朱くなってしまった頬を隠しきれず、わざとらしく不機嫌そうな表情を作ったハイネルがキッチンから戻ってきていた。
マグカップからは、トロリと甘く香ばしい香りが部屋中を染め上げる。
「これって…ホットチョコレート?」
「お前がチョコ、チョコとうるさいからだ!言っておくが、甘みはほとんど無いからな」
表情は崩さないまま、プイッと顔を逸らすハイネルと、テーブルに置かれたマグカップを交互に見やり、満面の笑みを浮かべながらぐいっと自分の膝の上へと座らせる。
「大丈夫、2人で飲めば甘くなるから」
そう言ってグーデリアンが1口ホットチョコレートを飲んだマグカップを、ハイネルに渡した
「そんなの気のせいだ」
と言いつつも、素直にそれを口に含む。
「……やっぱり気のせいじゃないか……」
チラリと後ろにいるグーデリアンに振り返り、嘘つき、と目で訴える
「気のせいじゃないって。ホラ」
そのままハイネルの顔を逃がさないように顎をくい、と捕まえて、そっと唇を重ねると、なんだかとってもチョコレートに包まれたキスの味が広がって、 離したハイネルの口元がふっと緩む。
「――――確かに、そうかも」
2人は再び甘いチョコの味を確かめるかのように、何度も何度もキスをした。
もちろん、神様への感謝の気持ちも忘れてはいないグーデリアンであった。




END



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