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キミの気持ちと、キミ自身
前が見えなくなる程に積み上げられた、一足早いバースディ・プレゼントを両手に抱え、落としてしまわないようゆっくりとした足取りでモーターホームへと入る。 外の賑やかさとはうって変わって、室内はしんと静まり返り、赤く染まった夕陽が閉められたカーテンの隙間から一辺の筋となって差し込んでいた。 「あれ……?いないのかな?」 片付けられたテーブルの上へよいしょ、と両手の荷物を下ろすとグーデリアンはほの暗い室内を見回した。 モーターホームへ来る前に1人のスタッフからテストランを終えたハイネルが休憩中であることを聞いていたので、プレゼントを見せびらかす為にやって来たのだが、静かな室内には ハイネルの気配が感じられなかった。 もう休憩は終わってしまい、入れ違いになってしまったのだろうか―――? そう漠然と考えながら、奥にある普段ハイネルが使っているデスクへと歩みを進める。 パソコンの置かれたデスクは、グーデリアンからは向かい合わせたように置かれ、一瞬見た感じではやはり誰もいない。 が、ふとデスクの隅に追いやられているマグカップに目が止まる。 ハイネルが自分で使った物を片付けないままにすることはほとんどない。 「…いるのか?」 差し込む夕陽の明るさが届かない奥は入り口よりも薄暗さが増してはいるが、それでも人を探す程度には不自由しないのでわざわざ照明を点けることはせずデスクの正面へと近づき、 そこで足を止めたグーデリアンがそっとパソコンを横から覗き込んだ。 「―――――――――――」 彼の表情が慈しみを込めたように、ふ、とほころぶ。 ようやく見つけた愛しい人の、仕事中ではめったに見せない休息のひととき。 腕を枕に、突っ伏して眠るハイネルは、きつい印象を与えるグリーンの瞳を長い睫が彩る目蓋に隠してしまい、穏やかな姿を見せている。 一定のリズムを刻む寝息が、彼の眠りの深さをグーデリアンに伝えているかのようだった。 「……ったく、テストの後くらいちゃんと休めってーの」 そんな説教じみた台詞を呟いてみても、優しさを滲ませる言葉の響きは隠せない。 言いながら辺りをぐるりと見回し、近くのソファーの上にきっちり折りたたまれて置かれているブランケットを掴み取ると、少しばかりひんやりしてきた空気からハイネルを守るようにふわり と肩に掛けた。 と ハイネルの腕の下に敷かれた数枚の書類らしきものの一番上に、ひと回りほど小さく、殴り書きと言っても過言ではないような、らしくない用紙があるのに気が付いた。 何かのメモだろう――――。 いつもなら気にも留めないグーデリアンだが、何故かこの時ばかりはそのメモに記された内容を見てみたいという衝動に駆られてしまった。 本当に、あまり深い考えがあったわけではないけれど、あんまりにもこのメモがハイネルらしくなかったから。 そろりと紙を抜き取る。 「時計、靴………え――――っと……ジーンズ…?何だこりゃ?」 何かを書いては上からぐりぐりと書き消しているので、全てを読むことは出来ないけれど、それでもそれぞれの物と一緒に書かれてあるブランドの名前は、グーデリアンのよく知って いるものばかりだった。 「これなんかイイと思わない?」 ハイネルと過ごす、他愛のない時間。 新聞を読むハイネルの傍らで、買ったばかりの雑誌をパラパラとめくる。 「お前の好みは理解出来ないからな」 新聞から目を離すことなく、返された答え―――――だと思っていた。 いいなぁ、なんて独り言で終わらせていたはずの物が書かれている、このメモを見るまでは。 「まさか、これ」 自惚れでなければ。 「俺の―――――――?」 バースディ・プレゼントの………? 戸惑ったような表情を浮かべたまま、静かな寝息を立てているハイネルと握り締められたままのメモとを交互に見返す。 散々悩んだような、塗りつぶされた跡が残るメモ用紙。 1人の時を見計らって、このデスクで頭を抱えていたのだろうか。 その時ばかりは、俺のことだけを考えていてくれたのだろうか。 徐々にグーデリアンの顔が、とろけるような幸せいっぱいのそれに変わっていく。 欲しいと思っていた物をプレゼントされるよりも、こうやってハイネルが自分の事を思ってくれていた、という事実の方が何倍も嬉しいと素直に思えるから。 『―――――ありがとう』 起こさないよう、ハイネルの柔らかな髪をゆったりとした仕草で撫でながら心の中で呟くと、おもむろに無造作に転がっているペンを取り、メモに残されたいくつかのプレゼント候補 の全てにバツ印を書き足していった。 そうしてその下の余白には―――――――。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「ん――――……?」 モーターホームの扉が閉まる音がして、ハイネルはゆらりと目を覚ました。 座ったままの状態で眠っていた為に、首と腰に軽い痛みを感じ、ゆるゆるとした動作で上体を起こす。 パサリ と何かが床に落ちる気配がして、それが掛けた覚えの無いブランケットだと気が付いた。 「――――誰か……いたのか?」 ぼんやりとした頭で、手元のデスクライトのスイッチをいれると、それまで暗がかりでよく見えなかった視界が明るく照らされる。 「―――――――っ!!!」 ハイネルの脳内も、ライトのスイッチと共にオンになったらしい。 目の前のパソコンの画面に貼られた1枚の紙。 自分がうたた寝をする直前までペンを走らせていたメモ用紙。 グーデリアンのバースデーまで日がないのにプレゼントが決まらず、あれこれと悩んでいたリストである。 それがさも、見ました、と主張するかのように画面の中央に貼り付けられているのを見て、今更ながらハイネルは慌てた様子で引き剥がす。 「……ん?」 メモを丸めて捨ててしまおうとして、しかしそのメモの内容が変わっていることに、手が止まる。 自身が決めかねていた物の全てにバツで印が付け足され、その下に異なる筆跡で書かれた一言。 子供のような悪戯に、思わず笑みがこぼれる。 「――――これならとっくに……」 お前のものだろう? 『A feering and yourself of you 』 END |