いけいけ!シュトロゼック・プロジェクトA




「おぉ〜い!!出来たぞ〜〜〜っっ!!!」
遠くから聞こえてきた声に、一斉にピット裏へと駆け寄るスタッフ達。
息を切らせながら走ってきたメカニックの顔は輝いている。
チェッカーフラッグを1番に受けたレーサーのように輝いている。
今日という日を待ち望んでいたスタッフ達は、胴上げでも!と言わんばかりに興奮し、ともすればチームレーサーが優勝したときのような熱気が渦巻いている。
今日もシュトロゼック・プロジェクトの熱い1日が始まろうとしていた。


ゼーゼーと息を整えているメカニックの足元にどさりと置かれたダンボールの箱。
ごくり、と固唾を呑んで見守る中、そっと箱が開けられる。
光り輝くような、まばゆいオーラの中(笑)姿を現したのは、写真の入った、人数分の半透明の袋だった。
震える手を押さえながらゆっくりと配られていくそれらの中身を、誰もが取り出すこと無く、皆一様に緊張した面持ちで固まっている。
静まり返った人垣の輪の中心にいたメカニックがゆっくり辺りを1度見回すと、一呼吸置いて、更にゆっくりと中身を取り出す。

「―――――――…………!!!!!」

バタ――――――――――――ンッッッ!!!!! (お約束)

「おいっ!大丈夫かっっ!?しっかりしろぉぉぉっっ!!!」
あまりの衝撃波に倒れこんでしまった勇気あるメカニックが、鼻血まみれの顔―――
しかしどこか輝かしく、悔いの無いような晴れやかな顔を僅かに持ち上げて一言、力を込めて言い放った。
「さ……最高の……クオリティっす!!」
親指をグッと立てて昇天してしまったメカニックに続き、我も我もと逸る心を落ち着かせながら、それぞれが写真を取り出し始める。

自然に下ろされた、透けるように柔らかな金色味を帯びて、風になびく茶色の髪
いつも掛けている眼鏡は外され、露になった端正な顔立ち
双眸からは、遮られるもの無く発するみどりの光
優雅に、けれど正確に打ち込まれるであろう、キーボードを操る長いゆび
写真を通してでも、まるで昨日のことのように思い出されるハイネルの姿に、皆が酔いしれる。

それは第8戦ドイツGPXでの事だった。
予選終了時に、過労で倒れてしまったチーム監督のハイネルが不在の状態で臨んだ本戦。特に何事も無く順調にレースは進んでいくかと思われた矢先に起きた 突然のマシントラブルに、ピット内が騒然となっていた。
「――――リタイアなどさせんぞ!」
力強いテノールボイスと共に流れるような空気を身に纏い、モニターへと向かう彼の姿――――。


「ああ……、あれは夢なんかじゃなかったんだな」
「そうだな。俺はあの日、倒れてしまいそうになる自分を必死で堪えて、ハイネルさんの姿を目に焼き付けたんだ。でも、もしかしたら夢だったのかも、なんて思ってた」
写真を胸に抱いて、ウットリと遠い目をしているスタッフ達。
もう少し付け加えるなら
写真を胸に抱いて、鼻にティッシュを詰め込んで、遠い目をしているスタッフ達。
そんな彼らの耳に、カツコツと聞きなれたリズムを刻む足音の主が近づいてくる。
「おはよう」
あっ!カントク!!
振り返った2人のスタッフと、その隙間から伺えるとんでもない状況に、ハイネルが固まる。
「おいっ!!監督が来られたぞ!!」
かろうじて立っているその2人の声に、全員が何事も無かったかのようにシャキンと立ち上がる。
「おはようございます!!!」
「……………………」
普段より3倍増しな、にこやかなスタッフの笑顔。
いや、むしろここで気にかかるのは、全員の鼻に詰め込まれたティッシュ―――――。
倒れていたのも気になるけれど……。
いや、やっぱりティッシュの方が……。
そんな一瞬のハイネルの冷静さは、どんどん剥がれていってしまう。
「――――――――」
何かの…事情が……。
そうだ、きっと何かの事情があるハズ……。
笑ってしまいそうになる自分を叱咤しながら、様々に予想される事情を思い描く。
が、ニコニコとハイネルの指示をじっと待っている鼻栓をしたスタッフが、そんな予想を蹴り飛ばしてくれた。
「―――――――ッ」
頑張れ自分!
笑っては失礼だ!!
などという心の叫びも空しく、プッと噴き出してしまう。
くっくっく…と笑っているハイネルの顔。

ブ――――――――――ッッッ!!!!!
ああ、それはまさに乾いた泉が並々と水を湛えて息を吹き返すような……
と、更に鼻に詰め込まれたティッシュが紅く染まっていくのを、既に誰も気にしてはいない。 一段と笑いのツボにハマったハイネル以外は―――。



そうしてこのハイネルとスタッフの応酬は、遅刻してきたグーデリアンによって救われるまで続いたのであった。



END



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